ISBN:4103808063 単行本 江國 香織 新潮社 2003/11/19 ¥1,470

12も短編が綴られていると、いくら読み進めても読み終えられないような気持ちになった。

「前進、もしくは前進のように思われるもの」:言葉が受け手にどのくらい影響を与えるのかを考えてしまった。そして、自分が受けとった言葉ほどには他人から発するそれは大したことではない。恩を受けた相手の娘を数日あずかることを、「名誉の問題」と言って夫と言い合った主人公の気持ちはわからなくもないけれど、それを笑ってやるくらいの余裕をいつも持っていたい。

「じゃこじゃこのビスケット」:いい思い出じゃないのにやたらと思い出すことってわりとある。「初めてのデート」のように、忘れられない記憶が誰にでもある。それは自分だけの宝物だから、胸の中にしまっておきたい。

「熱帯夜」:恋をしていると、行き止まりを見てしまうことが多々ある。不安をかきけそうとしても消えない。失うのがこわいもんね。

「煙草配りガール」:大切な人の言葉って、どうしてこんなにも特別なのかな。魔法にかかったように、その言葉に腹を立てたり幸せな気持ちになったり。腹が立ったときは煙草配りガールに中断してもらった方がいいかもね。

「溝」:自分の居場所は不確定なものだ。そして、それがないと更に不確定になってしまう気がする。特に、恋をしている時にそれを感じる。

「こまつま」:誰かに見られていることを意識して行動するって考えただけで疲れる。そしてよくわかる。実はこの作品、かなり共感してしまったのです。

「洋一も来られればよかったのにね」:読んだ後、何だか腹立たしい気持ちになった。どうして一緒にいたくない人と一緒にいるの?そんな気持ちからきたのだと思う。日常は、そういうことの方が多いことを当然知りつつも。

「住宅地」:不審に思っていた相手と少し言葉を交わしただけで初めの感情が吹き飛ぶことってある。頭には駅とか電車のような公共施設が浮かんできた。

「どこでもない場所」:本当のことでも、口にした途端に現実とは全然違う素敵なことを思わせることはたまにある。それは、時と場合によっては小さな罪悪感になったり、嬉しくなったりするけれど、私は嬉しく思ったりしたくないな。現実が悲しいでしょ。

「手」:この話はよくわからないので割愛。

「号泣する準備はできていた」:このタイトルがいい。ストーリーの中にもこの言葉がでてきたけれど、まるでパズルをはめたようにピタッとくる何かを感じた。すごく潔くもあるし、その逆でもある。この言葉にひかれてこの本を読んだのかも。

「そこなう」:小さな浮気を恋人に打ち明けた日のことを思い出した。元の関係には戻れないけれど、これから先も同じ未来をみていくということがせつない。新しく作っていく楽しみよりも失ってしまったものの代償が大きすぎるんだ。それでも大切な人なら手を離せない。

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