ISBN:4163220100 単行本 よしもと ばなな 文藝春秋 2003/07/26 ¥1,200 『デッドエンドの思い出』は、出会いのタイミングや状況の流れが人間の関係を規定していくさまを、5つの短編によってリアルに描いた短編集である。 大学の同級生である男女の出会いと別れ、そして再会に、普遍的な人生の営みを重ねた「幽霊の家」。会社を逆恨みする男によって毒を盛られたカレーを社員食堂で食べてしまった女性編集者の…

久々に読んだばななさんの作品。短編だったから読みやすかった。この人の作品で不思議なのは、一話一話が完結していること。例えば、作品の続きが読みたくなって苛立ったりすることはない。もちろん、少しの余韻を残してはいるものの、それだけ。

それにしても吉本ばななは、ほとんどの作品のキーマンに、育ちのよさそうな、もしくは品のいい人物を登場させる。私は、その魂の美しさを感じさせる人物を主人公の視点で見たくなって本を開く。

1話目「幽霊の家」:幽霊なんか登場してたっけ…って思うくらい、幽霊の描写が私の知っているそれとはかけ離れていて、むしろ幸せな光景として印象に残っている。最後のハッピーエンドを読み手にあのタイミングで伝えるやり方は、やられた…と思った。

2話目「おかあさーん!」:カレー事件を頭にちらつかせたストーリー。日常の当たり前だと思っている生活に感謝したくなった。自分が生かされていることなんて、もしかしたら偶然にすぎない。そう思うと背筋がちょっと寒くなった。

3話目「あったかくなんかない」:あかりのあったかさを考えさせられた。その答えを、まことくんという少年に教えられた。あったかいあかりのついた家庭をつくりたい。

4話目「ともちゃん」:ともちゃんと話し手の接点がない珍しい作品。話し手の感情が混入しない分、ともちゃんの気持ちに近づけた。でもいつもの書き方の方が私は好き。

5話目「デッドエンドの思い出」:吉本ばななはこの作品以外でものび太とドラえもんの姿を幸せの描写としてあげているのが面白い。なるほど、わかりやすい。こういうわかりやすい描写をはさむことによって、私たち読み手がいかに親しみをもって話に入り込めるか、というのもテクニックだな。上手い☆それにしてもお金ってどうしてもドロドロした印象になりそうなのに、西山君は事も無げにちゃちゃっと解決してしまって素敵だよ。でも西山君が言うほど高梨君は悪い奴ではないと思う。人に対する印象を当人にむかって言うのはよくないって最近誰かに教えてもらったけど、当人だけでなく、そういうことは胸にしまっておきたいな。

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